「公共のネット基盤」
パブリックネットベース(t0)は、あたらしい文化技術のための機関である。オーストリア、ウィーンで1994年に設立されて以来、文化芸術シーンにニューメディアの基盤を提供してきた。「パブリック」といっても、政府による公的機関という意味ではなく、独立した非政府組織だ。
様々な組織と積極的に協力して数々のイベントを仕掛けたほか、芸術家・移民・マイノリティを対象に、インターネット接続サービス、技術ワークショップなどを非営利事業としてきた。
ワークショップの内容も、インターネットやeメールの基礎、ホームページ作りからはじまって、Zopeのようなウェブコンテンツのマネジメントシステム・phpやPerlなどのスクリプト言語・PGP/GPGによる暗号化・セキュリティ・Linux・3D・VJ・ストリーミング技術など多岐にわたる。
とはいえ、専門学校やカルチャーセンターみたいなものを目指すのではない。
かれらが技術を重視するのは、技術の文化が社会に及ぼす影響を見抜いているからだ。そのことは、これまでのイベントのテーマをみればよくわかる。「情報社会の民主主義と公共性」「New
World (B)Order (新世界 ー 秩序/境界)」「Sex.Net 性と嘘とインターネット」「肉体機械:遺伝子の搾取」「情報時代の市民権」「経済と計算機と戦争機械」…
ジェンダーとエスニシティ・監視社会論・公共性再考・経済の新自由主義など、人文社会学の分野で議論されている諸問題について「イデオロギーとしての技術と科学」を、単に言葉の上で論じるだけでなく、また空間や身体を場とした文化実践に移してきたのだ。
オランダの"0100101110101101.org"を招いたアートプロジェクト「nikeground
ー 空間の再考」もそのひとつだ。2003年9月、ウィーンの歴史的なカールス広場がナイキ広場になる!というニュースがオーストリア中に流れた。世界市場で人気のある
/ 途上国の労働力搾取でも有名な、靴ブランドのナイキだ。名前を替えるだけでなく、公式(偽)ウェブサイトを立て、広場にナイキのロゴをあしらった巨大なモニュメントを設置した。この捏造アートは大反響を巻き起こし、ナイキは著作権侵害や損害賠償を裁判所へ訴えたが、商事裁判所は仮処分請求を棄却。マスコミもユーモアのない多国籍企業に味方はしなかった。ブランドをネタにするアートのために、ウォーホルを持ち出すまでもない。
オーストリア出身のGabi
Hadlによると、技術の政治性を問うかれらの活動自体も右傾化する政治の波にさらされている。予算が削られ、基盤であるインターネット接続サービスが継続できなくなった。ワークショップやイベントを実施するための場所も縮小されたという。そのときに困るのは誰か。あらためて、公共性とはなにか?
text:桜田和也(remoスタッフ)
■ パブリックネットベース(t0)
http://www.t0.or.at/
■ ナイキ広場公式(偽)ウェブサイト
http://nikeground.com/
■ 0100101110101101.org
http://0100101110101101.org/
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