私はダンサーでもダンスの専門家でもないので、薦められた公演をたまに観に行くくらいだ。そんな私がこれまでに鑑賞した数少ないダンスで、今も頭に焼き付いているのは、ネザーランドダンスシアターのコレオグラファー、Hans van manenによる演目。非常に繊細でリズミカルな動きは、抽象的ではありながら日常における人の微妙な動きや癖、習性を表出する。舞台装置や衣装に頼らず、あくまで身体そのもので表現される研ぎすまされたダンスは、私を恍惚の世界へ導いた。一度これを体験すると、何度でも同じ感覚を味わいたくなるというのが人間の性だろう。写真家でもあるvan menen氏によって制作された映像作品では、引力から逃れられない身体が美しく、エロチックに捉えられ、彼の身体に対する飽くなき執着を垣間見ることができる。人間そのもの、また私たちをとりまく事象について深く観察する洞察力と、それを作品として昇華していく技は、表現媒体が何であれ、私の心に響くのだということを教えてくれた。

 

雨森 信
Nov Amenomori
>> インディペンデントキュレーター。remo[NPO法人記録と表現とメディアのための組織]メンバー。
remoにて、企画・運営を行うほか、大阪現代芸術祭プログラムの一環でBreakerProjectを新世界を拠点に展開(2003ー2005)。