新世界アーツパークには4つのNPOがあり、それぞれがあるジャンルに特化した展開を行っていますが、常日頃から相互の情報交換が自然発生的に行われています。もちろん技術や機材の補完もあり、まるで醤油を借りに行くかのようなご近所付き合い。
こうしたネットワークは、フェスティバルゲートの中で留まってはおらず、SAPスタートから今日までの3年間で大きく広がってきています。
今回のSAP-Tourism*では、アートNPOのネットワークをご紹介します。果たしてこうした繋がりは、都市や社会にとってどのような役割を持つのでしょうか?

 

 “創造都市”とは市民の誰もが創造的に生活し、活動できるような都市のあり方です。とくに芸術文化は市民や都市を創造的にする、とても重要な役割を持っています。欧州では20世紀末から「芸術文化による都市再生」の取り組みが大きな成果を挙げていますが、日本では残念ながら、「高層ビル建設による都市再生」がまかり通ってきました。創造性よりも収益性を高める政策が優先されてきたと言ってもいいでしょう。

 アメリカの都市学者、ルイス・マンフォードは“劇場都市論”というものを唱えていて、「都市は芸術を育てるとともに芸術であり、都市は劇場をつくるとともに劇場である」という有名なフレーズがあります。ちょうどバブル経済の頃は建築ラッシュで、全国にすばらしいオペラハウスも多数建てられました。それを指して「劇場都市だ」と言った人もいますが、マンフォードの言っている意味は、都市の日常生活の一コマ一コマを芸術的にしようということ、つまり「都市生活の芸術化」です。

 都市に暮らす一人ひとりが自由に自分の能力を発揮する機会を保障されていること、多様な価値観が共存していることなど、創造都市(劇場都市)実現のための要素は多くありますが、根底にあるのは、芸術文化が根づいていることなのです。

 

 芸術、とくに現代アートには、既成の価値観を見つめ直し、視野を広げる機会を提供するものが多くあります。現代アートに触れることによって市民の創造力が育まれ、都市全体の創造力が高まっていくという現象が、イタリアのボローニャ、スペインのバルセロナ、フランスのナント、オランダのアムステルダムなど、多くの都市で起こっています。これらはいずれも製造業が衰退し、長引く不況にあえいでいた地域ですが、芸術文化を起爆剤にして、見事に再生を果たしました。

 カナダのモントリオールも「サーカスアーツシティ計画」を掲げ、環境問題も含めた都市再生に取り組んでいます。ここで注目すべきは、2002年に設立された「カルチャー・モントリオール」というNPOで、文化組織関係者約700人で構成されており、行政と市民をつなぐ役割を担っています。事業の一つ、「カルチャー・デー」はアーティストと市民が触れ合う場になっていて、アーティストが企業に出かけてワークショップを行ったりしています。アーティストが作品をどういうふうに創っているのか、企業人がアーティストの創造的な発想に触れて意見交換することで、大いに刺激を受け、新商品の開発にもつながっているそうです。

 このように欧米の創造都市では、アート分野のNPOがネットワークを組んで重要な役割を演じています。一般にNPOは収益性は低いが、社会にとって必要性の高い公共財を市民に提供する使命を持っています。アート分野で活躍するNPOはアーティストを支援して、合理性や効率性だけでは計れない、新しい価値観のモノサシを選択することによって、質的に豊かな社会が実現する目的で活動しています。

 筆者が所属する大学院は、創造都市を実現していくプロデューサーを育てることをめざして、2003年に開設されました。プロデューサーと言うからには理論を学ぶだけではなく、実践経験を積んでいくことが不可欠ですし、パートナーになってくれる芸術文化の専門家が必要です。そのためにも、アートNPOが創造的な活動を展開している「新世界アーツパーク」が市民の支援を受けて末永く存続してくれることを願ってやみません。