芸術、とくに現代アートには、既成の価値観を見つめ直し、視野を広げる機会を提供するものが多くあります。現代アートに触れることによって市民の創造力が育まれ、都市全体の創造力が高まっていくという現象が、イタリアのボローニャ、スペインのバルセロナ、フランスのナント、オランダのアムステルダムなど、多くの都市で起こっています。これらはいずれも製造業が衰退し、長引く不況にあえいでいた地域ですが、芸術文化を起爆剤にして、見事に再生を果たしました。
カナダのモントリオールも「サーカスアーツシティ計画」を掲げ、環境問題も含めた都市再生に取り組んでいます。ここで注目すべきは、2002年に設立された「カルチャー・モントリオール」というNPOで、文化組織関係者約700人で構成されており、行政と市民をつなぐ役割を担っています。事業の一つ、「カルチャー・デー」はアーティストと市民が触れ合う場になっていて、アーティストが企業に出かけてワークショップを行ったりしています。アーティストが作品をどういうふうに創っているのか、企業人がアーティストの創造的な発想に触れて意見交換することで、大いに刺激を受け、新商品の開発にもつながっているそうです。
このように欧米の創造都市では、アート分野のNPOがネットワークを組んで重要な役割を演じています。一般にNPOは収益性は低いが、社会にとって必要性の高い公共財を市民に提供する使命を持っています。アート分野で活躍するNPOはアーティストを支援して、合理性や効率性だけでは計れない、新しい価値観のモノサシを選択することによって、質的に豊かな社会が実現する目的で活動しています。
筆者が所属する大学院は、創造都市を実現していくプロデューサーを育てることをめざして、2003年に開設されました。プロデューサーと言うからには理論を学ぶだけではなく、実践経験を積んでいくことが不可欠ですし、パートナーになってくれる芸術文化の専門家が必要です。そのためにも、アートNPOが創造的な活動を展開している「新世界アーツパーク」が市民の支援を受けて末永く存続してくれることを願ってやみません。 |