>> 活動内容や形態を異にするアートNPOが集まり、年に一回開催されています。多様な価値観を創造したり認識したりする力を養うという、アートの社会的役割。それがより社会に浸透し、活かされるように活動するアートNPOが、その活動におけるさまざまな課題やニーズを話し合う場です。今年は群馬県前橋で開催され、SAPに参画するNPOも出席し、パネリストとして出演してきました。  
 
2005/11/5〜6 @旧前橋オリオン座、旧麻屋デパート 他
主催:アートNPOリンク / 全国アートNPOフォーラム前橋実行委員会
共催:ぐんま文化会議 / 前橋文化デザイン会議実行委員会
 
 

 

大谷燠
(NPO法人ダンスボックス 代表理事)

11月4日15:30、前橋着。駅前から欅の色づき始めた大通りを歩く。金曜日の午後というのに人影はまばらである。萩原朔太郎の詩碑のある広瀬川沿いにあるホテルにチェック・イン。関西の人間にとって、群馬、埼玉、千葉の位置関係や地域の特性などいまいち、把握できていないのである。前橋に来るのも初めて。早速、街に出る。

明日の会場となる施設を見て回ると、このフォーラムの地元側の主催者である全国アートNPOフォーラム前橋実行委員会の代表の小見さんに出会う。周辺では明日の準備のため、ボランティアを中心とした地元スタッフが活きいきと働いている。小見さんは7〜8年前から、前橋の遊休施設を様々なアートプロジェクトで活性化してきた人で、地元の若いアート関係者から信頼されていることが、伝わってくる。今回はフォーラムに併せて、ダンス、アート、映画、ワークショップなど、多くのプログラムが企画されていて、まさに街ぐるみのプロジェクトといえる。

11月5日10:50、昭和9年に創業されたレストラン「ポンチ」にて、文化庁の河合隼雄長官を交えて、オープニング・セッション「公共文化政策を考える‐アートNPOが公共文化政策を担うために‐」の打ち合わせ。

12:30、群馬県副知事、前橋市長の挨拶に続いて、フォーラムが開始。現代社会における芸術文化の必要性、アーティストのレベルの向上。創造都市という概念のもと、アートNPOがアーティストと市民を結びつけていくために、国や地方行政と構築すべき新しい関係など、様々な角度から意見交換がなされた。河合さんの意見で印象的だったのは「グローバリズムは経済と結びつきやすく、<個>を消していく。今、新しい<個>を確立していくことでお上ではない<公>を創る必要があり、その役割をになうのはNPOとボランティアだ」と言われたこと。最後に、地域文化の担い手としてアートNPOと文化庁が、どのようなシステムで共同できるかということを研究会を開いて話し合っていくことを決めることができたのは、今後のアートNPOリンクにとって収穫だったと思う。この後、6日にかけて7つのフォーラムが開催され、アートや劇場、地域メセナ等の観点から様々な意見が交換された。

最後に主催者代表である小見さんが「街が多様な価値観を受け入れることができるようになることが豊かな社会を生み出すことで、それがアートにできることだと思う」と言われたのが印象的であった。私たち4NPOが大阪市と共同して展開してきた「新世界アーツパーク事業」も、まさに全国のアートNPOとリンクしていると実感した。

 


 

甲斐賢治
(NPO法人記録と表現とメディアのための組織 / remo 代表理事)

一昨年前の2003年のとある日、ここフェスティバルゲート・新世界アーツパークの一室で、全国のアート・文化系NPOをネットワークしようという準備会の関西部会が開かれました。その時はまだ漠然と、個々人が持つネットワークを介し集まった関西周辺のいくつかのNPOの代表者や関係者が、全国をむすぶ組織のその必要性は理解しながらも、ぼんやりとしか見えないイメージを元に話し合い、第一回フォーラムの開催へと動きだしたような状況でした。そのように暗中模索ながらも始まった、この時の動きが、第2回の札幌での開催を経て、今回、11月5日・6日の二日間に渡り、群馬県・前橋市において3回目の開催を迎えることとなりました。

今回、現地のホスト役を務める“前橋芸術週間”の小見純一氏を柱とする、大勢の学生ボランティアを含む地元チームの多大な尽力によって、“前橋中心商店街”に点在する旧映画館や旧百貨店などが会場としてリメイクされていました。訪れた人々はそれぞれにフォーラムや分科会、さらにはカフェやダンス・パフォーマンスなどが行われる数カ所の会場をその都度の目的に応じて巡る構成となっています。それが知らず知らずのうちに界隈を歩いてしまうこととなり、人通りは少ないものの少しずつ親しみが湧いてきて、まるで街全体が、静かにやさしく来訪者を迎えてくれているような居心地良さを感じることができる開催地となっていました。

メインプログラムとなるフォーラムは、終始とても和やかかつ率直な意見交換がなされた文化庁長官・河合隼雄氏とNPOの代表者ら数名によるオープニングセッションからスタートし、いくつもの分科会が設定されていて、まちに暮らす視点、都市計画の視点、アーティストの視点、さらにはまちとアーティストのかかわりなど、異なる階層の報告や議論がなされました。さらには、ダンスパフォーマンスのプログラム「踊りに行くぜ!!」では、地元のダンサーを含む数名がそれぞれに異なる商店街の空店舗を活用した演目で、100名を越える人々が街を練り歩きながら鑑賞するという、活気に満ちたものとなっていました。

まだ、始まったばかりのNPOという自主的な市民主導の活動。今回のフォーラムでも議論された「公共」の意味が、行政という役割が規定し進めていくというものから、行政と共に市民も自らさまざまな協働や議論を介し「新しい公共」を形成していくものへと、ゆるやかに移行してきていることが実感できる機会となっていたように思います。

 


 

資本主義経済の原理の上だけでは、現代社会の多様化 / 複雑化 / 細分化によって生まれたマイナーニーズは、どんどん取りこぼされて行きます。個の尊重がうたわれながら、エアポケットに陥った人々に手を差し伸べるのが困難な状況が次々と起こっています。個の尊重は、ひとりぼっちを耐えることではなく、それぞれが自分のできることを認識し、互いが補い合っている環境を楽しむことではないでしょうか。
そうした環境の創造、つまり関係性の再発見において、アートやそれを専門にするNPOの活動が今まさに必要とされているのです。

編集協力:大阪アートNPOコンソーシアム
編集:SAPB編集部